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「目と目で通じあう」ときの脳活動は? 二台のMRIを使って"共同注意"の脳活動を探る −健常人と高機能自閉症者の比較−

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内容

「目と目で通じ合う」とよく言われるように、視線を介した他者とのコミュニケーションは、人と人が円滑な社会生活をおくる上で非常に重要です。今回、自然科学研究機構生理学研究所の定藤 規弘 教授・田邊 宏樹 助教(現名古屋大学 准教授)らと福井大学子どものこころの発達研究センター(福井大学医学部精神医学)小坂 浩隆 准教授らの共同研究グループは、金沢大学と共同で、成人の健常者と高機能自閉症者(ASD)を対象に、2人の脳活動を2台の機能的磁気共鳴断層画像装置(fMRI)によって同時計測することにより、目と目をあわせて同じものに注意を向ける “共同注意”の際の脳の活動について調べました。健常者ペアでは同調した脳活動がみられるのに対して、高機能自閉症者と健常者のペアではみられませんでした。文部科学省・脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、生理学研究所(課題D)と福井大学(課題F)の共同研究として行われた研究成果です。本研究成果は、欧州電子版科学誌“Frontiers in Human Neuroscience”(2012年9月10日電子速報版)に掲載されました。

今回の研究では、定藤教授が福井大学に構築した簡易型の二者のfMRI同時計測システム(Dual functional MRI)を利用し、目と目で見つめ合う2人から同時に脳活動を記録しました。健常人と高機能自閉症者から2名でペアをつくり、その組み合わせによって比較しました。お互いに目を見つめ合い、一方が目配せによって自分が注意を向けている場所を相手に伝え、両者が同じ場所に共同で目線(注意)を向ける(共同注意)時の脳活動をリアルタイムで記録しました。健常人同士のペアでは、“共同注意”時に、脳の右前頭前野(右下前頭回)の脳活動の同調がみられました(「目と目で通じあう」)。高機能自閉症者と健常者のペアでは、そうした脳活動の同調は見られませんでした(「目と目で通じあうのが苦手」)。また、高機能自閉症者では相手の目を見て反応する際に脳の視覚野の活動の低下が見られたのに対し、健常人では高機能自閉症者が相手だと、むしろ視覚野と右下前頭回の脳活動の上昇が見られました。

定藤教授は、「高機能自閉症者と健常人がリアルタイムでコミュニケーションしている最中のfMRIによる脳活動の同時計測実験はこれが世界初です。高機能自閉症者は一般に視線を介したコミュニケーションが苦手であると言われていますが、脳活動からもそれを支持する結果を得ることができました。このfMRI同時計測システムを用いれば、高機能自閉症者との違う形のコミュニケーションの在り方を模索出来るのではないかと考えています。」と話しています。

文部科学省・脳科学研究戦略プログラム(課題D、F)にもとづく、福井大学との共同研究による研究成果です。

今回の発見

1.世界で初めて、「目と目で通じあう」ときの脳活動を、二台のMRIを使い、健常人と高機能自閉症者で同時にリアルタイム記録しました。
2.健常人同士のペアでは、“共同注意”時に、脳の右前頭前野(右下前頭回)の脳活動の同調がみられました(「目と目で通じあう」)。高機能自閉症者と健常者のペアでは、そうした脳活動の同調は見られませんでした(「目と目で通じあうのが苦手」)。
3.高機能自閉症者では相手の目を見て反応する際に脳の視覚野の活動の低下が見られたのに対し、健常人では高機能自閉症者が相手だと、むしろ視覚野と右下前頭回の脳活動の上昇が見られました。

図1  人と人が「目と目で通じあう」ときの脳活動を2人から同時にリアルタイム記録

press-metome-1.jpg

定藤教授が福井大学に構築した簡易型の二者のfMRI同時計測システム(Dual functional MRI)を利用し、目と目で通じあう2人から同時に脳活動を記録しました(上図は、生理学研究所に設置されているDual fMRIシステムの写真)。健常人と高機能自閉症者から2名でペアをつくり、お互いに目を見つめ合い、一方が目配せによって自分が注意を向けている場所を相手に伝え、両者が同じ場所に共同で目線(注意)を向ける(共同注意)時の脳活動をリアルタイムで記録しました(下図は実験イメージ)。

図2  「目と目で通じ合う」ときの脳活動は?
 - 健常人と高機能自閉症者の比較

press-metome2.jpg

健常人同士のペアでは、“共同注意”時に、脳の右前頭前野(右下前頭回)の脳活動の同調がみられました(「目と目で通じあう」)。高機能自閉症者と健常者のペアでは、そうした脳活動の同調は見られませんでした(「目と目で通じあうのが苦手」)。また、高機能自閉症者では相手の目を見て反応する際に脳の視覚野の活動の低下が見られ(上図左)、一方健常人では高機能自閉症者が相手だと、むしろ視覚野と右下前頭回の脳活動の上昇が見られました(上図中央)。

この研究の社会的意義

「目と目で通じ合う」時の脳活動   - 健常人と高機能自閉症者の違いを解明
高機能自閉症者と健常人がリアルタイムでコミュニケーションしている最中のfMRIによる脳活動の同時計測実験はこれが世界初です。高機能自閉症者は一般に視線を介したコミュニケーションが苦手であると言われていますが、脳活動からもそれを支持する結果を得ることができました。このfMRI同時計測システムを用いれば、高機能自閉症者との違う形のコミュニケーションの在り方を模索出来るのではないかと考えています。

論文情報

Hard to “tune in”: neural mechanisms of live face-to-face interaction with high-functioning autistic spectrum disorder
Hiroki C. Tanabe*, Hirotaka Kosaka*, Daisuke N. Saito, Takahiko Koike, Masamichi J. Hayashi, Keise Izuma, Hidetsugu Komeda, Makoto Ishitobi, Masao Omori, Toshio Munesue, Hidehiko Okazawa, Yuji Wada, Norihiro Sadato
欧州科学誌 Frontiers in Human Neuroscience,
電子速報版 2012年9月10日掲載
doi:10.3389/fnhum.2012.00268

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 心理生理学部門
教授 定藤 規弘(さだとう のりひろ)
助教 田邊 宏樹(たなべ ひろき)(現・名古屋大学 准教授)
定藤研究室
TEL: 0564-55-7842  FAX: 0564-55-7843
e-mail:sadato@nips.ac.jp

〒910-1193 福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23-3
福井大学 子どものこころの発達研究センター こころの発達開拓部門
福井大学 医学部精神医学
特命准教授 小坂 浩隆  (こさか ひろたか)
TEL 0776-61-8363   FAX 0776-61-8136
e-mail: hirotaka@u-fukui.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 
准教授 小泉 周 (こいずみ あまね)
Tel:0564-55-7722 Fax:0564-55-7721 
Email:pub-adm@nips.ac.jp

福井大学総合戦略部門広報室
古市 康博(ふるいち やすひろ)
TEL:0776-27-9733 FAX:0776-27-8518
e-mail:sskoho-k@ad.u-fukui.ac.jp

「脳科学研究戦略推進プログラム」事務局 
大塩 立華
TEL:03-5282-5145/FAX:03-5282-5146
E-mail: oshio@nips.ac.jp


 

 


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