Image may be NSFW. Clik here to view.普通のワサビ受容体(TRPA1a)とTRPA1のスプライスバリアント(TRPA1b)をもった培養細胞の2種類のTRPA1活性化剤に対する反応。TRPA1bだけをもった細胞ではTRPA1の応答は見られませんでした。TRPA1aとTRPA1bの両方をもった細胞では、TRPA1aだけをもった細胞より大きな電流応答が観察されました。TRPA1aとTRPA1bの両方があることによってTRPA1機能が増強することがわかりました。これは、痛みが強くなることにつながると考えられます。
図2 炎症性疼痛モデルにおけるTRPA1b遺伝子の発現変化
Image may be NSFW. Clik here to view.正常マウスではTRPA1b遺伝子(mRNA)は14日まで変化しませんが、CFA(シーエフエー)という起炎物質を足底に注射した炎症性疼痛モデルマウスでは、TRPA1b mRNA量がどんどん増えていくのがわかります。神経障害性モデルでも同様の現象が認められました。
図3 TRPA1bの量と疼痛増強のモデル図
Image may be NSFW. Clik here to view.炎症時や神経障害時にはTRPA1bが増えて、感覚神経細胞膜上のTRPA1a/TRPA1b複合体量が増加します。そして、TRPA1の応答性が増強して大きな電流が流れることによって痛み増強につながると考えられます。
Visualizing virus assembly intermediates inside marine cyanobacteria. Wei Dai, Caroline Fu, Desislava Raytcheva, John Flanagan, Htet A. Khant, Xiangan Liu, Ryan H. Rochat, Cameron Hasse-Pettingell, Jacqueline Piret, Steve J. Ludtke, Kuniaki Nagayama, Michael F. Schimid, Jonathan A. King & Wah Chiu. Nature. 2013年10月31日号
“Spike-timing dependent plasticity in primate corticospinal connections induced during free behavior” Yukio Nishimura, Steve I. Perlmutter, Ryan W. Eaton, Eberhard E. Fetz Neuron 2013年11月7日
自然科学研究機構 生理学研究所の深田正紀教授、深田優子准教授、大川都史香院生の研究グループは、鹿児島大学医学部の髙嶋博教授、渡邊修講師、北海道大学医学部の渡辺雅彦教授らとの共同研究により、国内の自己免疫性神経疾患患者の血清を網羅的に解析し、痙攣や記憶障害をきたす辺縁系脳炎の病因となる自己抗体の種類とその頻度を明らかにしました。そして、てんかん関連分子LGI1に対する自己抗体がシナプス機能異常を引き起こし、辺縁系脳炎を惹起している可能性が極めて高いことを突き止めました。さらに、辺縁系脳炎の診断、治療効果の判定に実用可能な検査法を開発しました。本研究成果は米国の神経科学誌(Journal of Neuroscience)に掲載されます(2013年11月13日号)。
Image may be NSFW. Clik here to view.自己抗体は文字通り自己の蛋白質に対して反応し、細胞、組織、臓器に障害を引き起こします。今回、研究グループは脳神経細胞の蛋白質に対する既知の自己抗体(黒字の蛋白質に対する抗体)に加えて、さまざまな蛋白質に対する新規の自己抗体(赤字の蛋白質に対する抗体)を発見しました。
図2 複数の自己抗体を同時測定できる検査法の開発
Image may be NSFW. Clik here to view.今回、多数の新規自己抗体の標的抗原を同定したことにより、一人の患者血清中にどのタイプの抗体がどの程度存在しているかを簡便、高感度、かつ特異的に測定することが可能となりました。
Image may be NSFW. Clik here to view.LGI1抗体価(縦軸)とCASPR2抗体価(横軸)と疾患との関連性を示しています。LGI1抗体価が0.8以上の患者さんは殆ど例外なく辺縁系脳炎と診断されていたことが明らかになりました(左上の赤色の群)。一方、CASPR2抗体価が0.3以上の患者さんはニューロミオトニア(神経筋緊張病)のケースが有意に多いことが分かりました(右中央の青色の群)。
図3 LGI1自己抗体はLGI1とADAM22/23との結合を阻害する
Image may be NSFW. Clik here to view.通常、LGI1はシナプス間隙でADAM22、ADAM23と結合し、AMPA型グルタミン酸受容体を精緻にコントロールしています。一方、LGI1の機能が自己抗体により後天的に阻害されると、シナプスにおけるAMPA型グルタミン酸受容体機能が低下し無秩序なシナプス伝達が生じます。その結果、痙攣発作を伴うてんかん病態や記憶障害が生じると考えられます。
痒いところを掻くと快感が生じます。しかしながら、その脳内メカニズムは不明でした。今回、自然科学研究機構生理学研究所の望月秀紀特任助教授、柿木隆介教授は、掻くこと(搔破)によって生じる快感に報酬系と呼ばれる脳部位(中脳や線条体)が関係することを明らかにしました。本研究成果は米国の学術専門誌Journal of Neurophysiology(神経生理学雑誌)の1月号に掲載予定です。
望月特任助教は、「気持ちよいからもっと掻いてしまうことがよくあります。特に、アトピー性皮膚炎患者など痒みで苦しむ人々にとっては、掻破による快感は深刻な問題です。なぜなら、過剰な掻破が皮膚を傷つけ、それが原因で痒みがさらに悪化してしまうからです。今回の発見により、快感に関係する脳部位が特定できました。この部位の活動を上手にコントロールできれば、過剰掻破を抑えることができます。そのような掻破の制御を目的とした新たな痒みの治療法開発につながることが期待されます」と話しています。Image may be NSFW. Clik here to view.
The cerebral representation of scratching-induced pleasantness. Mochizuki H, Tanaka S, Morita T, Wasaka T, Sadato N, Kakigi R. Journal of Neurophysiology. 2014 (in press)
極端な低温や高温に曝されたり、刺激性の化学物質に触れると痛みを感じます。今回、痛みを引き起こす刺激のセンサーであるTRPA1(トリップ・エーワン)をニワトリから単離し機能解析を行い、ニワトリTRPA1が刺激性の化学物質および高温のセンサーとして働くことを明らかにしました。変温動物の両生類や爬虫類のTRPA1も高温のセンサーであるのに対して、哺乳類のTRPA1は高温センサーではないことが知られています。同じ恒温動物である鳥類と哺乳類のTRPA1の温度感受性が一致していないことが分かりました。 また、鳥類忌避剤として利用されるアントラニル酸メチルがTRPA1により受容されることを新たに発見しました。更に、この化学物質によるTRPA1の活性に重要な役割を担う3つのアミノ酸を同定し、これまで不明だったアントラニル酸メチルによって引き起こされる忌避行動の分子メカニズムを解明しました。本研究成果は国際分子生物・進化学会誌(Molecular Biology and Evolution)に掲載されます(1月7日にオンライン先行出版されました)。
Image may be NSFW. Clik here to view.マウスのTRPA1は低温に反応すると報告されていますが、ニワトリTRPA1は低温刺激には反応せず、高温刺激を与えた場合にのみ明瞭な電流応答が生じました。また、ワサビの辛み成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)にも反応しました。ニワトリではTRPA1は高温と刺激性化学物質のセンサーとして機能することを示しています。
図2 アントラニル酸メチルに対するTRPA1の活性の種間多様性と活性化に重要な役割を担うアミノ酸
Image may be NSFW. Clik here to view.アントラニル酸メチルに対するTRPA1の活性を5種の脊椎動物種間で比較したところ、ニワトリ、マウス、ヒトのTRPA1では明瞭な反応が観察されるのに対して、ニシツメガエルとグリーンアノールトカゲのTRPA1では反応が小さかった。また、ニワトリTRPA1のアントラニル酸メチルによる活性化には互いに近接した3つのアミノ酸が重要な役割を担うことが分かった。
図3 脊椎動物のTRPA1の機能的な多様性とその進化シナリオ
Image may be NSFW. Clik here to view.高温センサーであるニワトリのTRPA1は、同じ恒温動物である哺乳類とは特性が異なり、むしろ、変温動物である両生類や爬虫類のTRPA1と類似していました。脊椎動物はもう一つの高温センサーとしてTRPV1を維持しているために、動物種によってはTRPA1の温度感受性が変化したと考えられます。一方、体にダメージを与え得る刺激を感じる能力はどの動物種にも必須であるため、いずれの動物種もTRPA1の化学物質感受性を維持してきたと考えられます。
Heat and noxious chemical sensor, chicken TRPA1, as a target of bird repellents and identification of its structural determinants by multispecies functional comparison. Shigeru Saito, Nagako Banzawa, Naomi Fukuta, Claire T. Saito, Kenji Takahashi, Toshiaki Imagawa, Toshio Ohta, and Makoto Tominaga. 2014年1月14日
Image may be NSFW. Clik here to view.突発性難聴の患者さんの正常な耳には耳栓をします。耳栓は入院中ずっとしてもらいます。そして聞こえにくい方の耳で入院中毎日6時間ヘッドホンから音楽を聞いてもらいます。
図2 突発性難聴発症後の聴力の変化
Image may be NSFW. Clik here to view.突発性難聴発症後の聴力を比較した。通常行われるステロイド療法にリハビリテーション療法を加えた患者群(灰色の棒グラフ)の方が、ステロイド療法単独の患者群(白色の棒グラフ)よりも聴力の回復が良かった(この図では棒グラフの値が0に近づくほど聴力が回復していることを示しています)。
図3 病側耳集中音響療法を行った患者の脳活動
Image may be NSFW. Clik here to view.リハビリテーション療法(音響療法)を行った患者に片耳から音を聞かせた時の脳活動を調べました。聴力低下の無い健常者では対側の脳の神経活動がやや大きいのですが(左右差=約0.2)、突発性難聴発症時には脳神経活動にあまり左右差を認めませんでした。しかしながら、ステロイド+音響療法を行うと発症後約3ヶ月で、聴力低下の無い健常者の脳活動の左右差とほぼ同等になりました。
Image may be NSFW. Clik here to view.3つある脳室(側脳室、第3脳室、第4脳室)のすべての領域において脈絡叢(濃い紫の部分)は存在しています。脈絡叢は上皮細胞、軟膜、毛細血管から成る一層構造でTRPV4は上皮細胞の先端側に多く存在しています。上皮細胞ではトランスポーターやイオンチャネルにより絶えずイオンが血管側から脳室側へと輸送されているため、それに伴う水の移動が起こり、結果として脳脊髄液が脈絡叢から分泌されています。
図2 TRPV4活性に伴うアノクタミン1の活性化
Image may be NSFW. Clik here to view.TRPV4とアノクタミン1を共発現している細胞においてホールセルパッチクランプ法により観察されたクロライド電流。共発現細胞では、TRPV4アゴニストによって大きな電流が観察されます(左)。また、この電流は細胞外カルシウムを除去した状態では観察されないことから、TRPV4活性によるカルシウムの細胞内への流入がアノクタミン1を活性化させることが示されました(右)。
図3 TRPV4-アノクタミン1相互作用による水輸送と脳脊髄液分泌の新しいモデル
Image may be NSFW. Clik here to view.TRPV4とアノクタミン1を発現した細胞においてTRPV4活性化に伴い観察される細胞収縮のモデル図(左)。脈絡叢上皮細胞においてTRPV4が活性化するとTRPV4-アノクタミン1相互作用によりクロライドが流出し、TRPV4と結合する水チャネルを介して水流出も促進されると考えられます(右)。
Modulation of water efflux through functional interaction between TRPV4 and TMEM16A/anoctamin 1 Yasunori Takayama, Koji Shibasaki, Yoshiro Suzuki, Akihiro Yamanaka, and Makoto Tominaga The Journal of Federation of American Societies for Experimental Biology. (オンライン版) 2014年 2月7日
脳の再生医療の鍵を握るものとして注目される神経幹細胞。脳のすべての神経細胞・グリア細胞の源であり、私たち成人の脳にもあって、記憶の形成や気分の安定に重要だと考えられています。この神経幹細胞はどのように維持されているのでしょうか?今回、自然科学研究機構・生理学研究所の池中一裕教授と滋賀医科大学の等 誠司教授のグループは、エピゲノム修飾因子であるBre1a(ブレワンエー)が神経幹細胞の増殖と分化を制御していることを発見しました。脳腫瘍の1つであるグリオーマでも、この分子メカニズムが働いていると推定され、グリオーマの治療技術の進歩にも期待できる研究成果です。米国の神経科学誌(Journal of Neuroscience)(2月19日号)に掲載されました。
Image may be NSFW. Clik here to view.解説 緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子導入と免疫染色によって可視化された、狭棘状細胞(緑)と、DB6細胞(赤)。網膜内で、狭棘状細胞がDB6細胞とシナプスをつくり、情報を受け取っていることが明らかとなりました。また、脳の視床に色素を注入する方法で、視床(外側膝状体)のK1層からこの狭棘状細胞がつながっていることが明らかとなりました。
この研究の社会的意義
目から脳へ“動き”の情報を伝える特殊な神経経路を発見
本研究から、これまで単純なカメラのフィルムとして考えられていた霊長類の網膜でも、特殊な情報処理をするための情報処理経路があることが明らかになりました。 今回発見した経路は、“動き”の検出に特化した経路であることが示唆されました。この経路が、目が見えない患者の“ブラインドサイト”(見えていると意識しないのに、ある種の情報が脳には直接送られている)と呼ばれるような能力に関与しているものと考えられます。Image may be NSFW. Clik here to view.
論文情報
Identification of a Pathway from the Retina to Koniocellular Layer K1 in the Lateral Geniculate Nucleus of Marmoset Kumiko A. Percival, Amane Koizumi, Rania A. Masri, Péter Buzás, Paul R. Martin, and Ulrike Grünert The Journal of Neuroscience, 12 March 2014, 34(11): 3821-3825; doi: 10.1523/JNEUROSCI.4491-13.2014
Image may be NSFW. Clik here to view.心臓では複数種類のイオンチャネルがさまざまなタイミングで開閉して心臓の活動電位を制御しています。その中でも、KCNQ1/KCNE1チャネルによるIKs電流は活動電位の比較的遅いタイミングで流れます。遺伝子の異常などによりIKs電流がなくなってしまうと、活動電位の延長が起き(赤い点線)、QT延長症候群などの不整脈の原因になります。
図2 KCNQ1/KCNE1チャネルは遅く開閉するイオンチャネル
Image may be NSFW. Clik here to view.一般に膜電位依存性イオンチャネルにおいては、細胞内の電位が+に転じること(脱分極)によって、正電荷を持つ4番目の膜貫通領域(S4、図中赤い棒)が細胞外に向かって動き、イオンを透過するためのゲートが開きます。KCNE1が結合することにより、KCNQ1チャネルの開閉速度は遅くなり、開きにくい性質に変わります。
Image may be NSFW. Clik here to view.KCNQ1/KCNE1チャネルにおいて、Phe232(F232)とPhe279(F279)をさまざまなアミノ酸に変異させると、アミノ酸側鎖が大きいほど、開くために高い電位が必要になります。
図4 電位センサードメインの動きと電流の間の遅延はPhe232とPhe279によって起こる
Image may be NSFW. Clik here to view.電位センサードメインの動きを示す蛍光強度 (赤)と電流(黒)を同時測定すると、KCNQ1/KCNE1チャネル(Q1+E1)では電位センサーが動いたあと電流が流れるまでに遅延が生じますが、Phe232あるいはPhe279を小さいアラニン残基に変異させると(F232A/F279A)、その遅延がほぼ見られなくなります。
図5 Phe232とPhe279がぶつかることでKCNQ1/KCNE1チャネルが開きにくくなる
Image may be NSFW. Clik here to view.KCNQ1/KCNE1チャネルが閉状態から中間状態を経て開状態に至る際、4番目の膜貫通領域(S4)上のPhe232と5番目の膜貫通領域(S5)上のPhe279がぶつかることで、開状態が不安定化してチャネルが開きにくくなっていると考えられます。
Steric hindrance between S4 and S5 of the KCNQ1/KCNE1 channel hampers pore opening. Koichi Nakajo and Yoshihiro Kubo. Nature Communications 5:4100 doi: 10.1038/ncomms5100 (2014).
<研究の内容> 目で見た情報を専ら処理する脳部位を視覚野と呼びます。視覚野の中には、観察した身体の部位に対して強く反応する領域があります。この領域はExtrastriate Body Area (EBA、イービーエー)と呼ばれています。近年の研究でEBAは真似をされているときに活動が高まることが知られています。 知的障害を有さないASD群19名(平均年齢25歳)と、年齢と知能指数を一致させた健常群22名が、本研究に参加しました。参加者は自分で動作(図1)を行ったあと、他者の動作を観察しました。他者の動作は自分の動作と同じ場合と異なる場合があります。つまり他者の動作と自分の動作が同じ場合は「真似をされて」おり、異なる場合は「真似をされていない」ことになります。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて健常群の脳活動を調べてみると、真似をされたときのほうが真似をされていないときに比べて、EBAの活動が高くなりました(図2左図の青色部分)。これとは対照的にASD群のEBAではこのような活動は観察されず、健常群とASD群の間に活動差があることが分かりました(図2左図の緑色部分)。この結果はASD群のEBAが真似をされたときにうまく働いていないことを示しています。
Image may be NSFW. Clik here to view.脳活動を測定している状態で実験参加者は、上図にある動作うち1つを行い、その直後に他者が行う動作を観察しました。他者の動作は自分の動作と同じ場合(真似をされる条件)と異なる場合(真似をされない条件)があります。
図2 真似をされたときのEBAの活動が自閉症スペクトラム障害(ASD)者で減少する
Image may be NSFW. Clik here to view.左図は、真似をされていないときに比べて真似をされたときに強く活動した領域を示しています。健常群ではEBA(黄色枠)の一部が活動しましたが(脳断面の青色の部分)、ASD群では活動が低下していました(脳断面の緑色の部分)。右図は、その領域の活動量を棒グラフで表しています。青色の健常群と赤色のASD群で、EBA領域の活動量に差があることが分かりました。
Attenuation of the contingency detection effect in the extrastriate body area in Autism Spectrum Disorder Yuko Okamoto; Ryo Kitada; Hiroki C Tanabe; Masamichi J Hayashi; Takanori Kochiyama; Toshio Munesue; Makoto Ishitobi; Daisuke N Saito; Hisakazu T Yanaka; Masao Omori; Yuji Wada; Hidehiko Okazawa; Akihiro T Sasaki; Tomoyo Morita; Shoji Itakura; Hirotaka Kosaka; Norihiro Sadato
脳からの信号を四肢に伝える経路である脊髄を損傷すると、損傷領域以外の脳や下肢に問題が無くても歩行障害が生じます。この歩行障害の改善には損傷した脊髄を繋ぎなおす必要がありますが、これまで実現できませんでした。今回、自然科学研究機構生理学研究所の西村幸男准教授を中心とした、笹田周作研究員(現所属:相模女子大学)、福島県立医科大学の宇川義一教授、及び千葉大学の小宮山伴与志教授らの研究グループは脳から上肢の筋肉へ伝えられる信号をコンピュータで読み取り、その信号に合わせて腰髄を非侵襲的に磁気刺激することにより、脊髄の一部を迂回して人工的に脳と腰髄にある歩行中枢をつなぐことで下肢の歩行運動パターンを随意的に制御することに世界で初めて成功しました。本研究結果は、The Journal of Neuroscience誌(2014年8月13日号オンライン)に掲載されます。
Volitional walking via upper limb muscle-controlled stimulation of the lumbar locomotor center in man. S. SASADA, K. KATO, S. KADOWAKI, S. GROISS, Y. UGAWA, T. KOMIYAMA and Y. NISHIMURA. The Journal of Neuroscience. 2014年 8月13日オンライン掲載
・Extrastriate Body Area(EBA) 目で見た情報を専ら処理する脳部位を視覚野と呼びます。EBAとは視覚野に含まれる領域の一つで、他の物体に比べて身体を観察した時に強く反応します。近年の研究からEBAは自分が動作を行うときにも活動することが分かっており、この領域がヒトのミラーシステムの一部に該当するかどうかについて活発な研究が行われています。
Image may be NSFW. Clik here to view. 実験参加者はMRIスキャナー内で模型に触れて、手を触った場合はその動作を、急須や車を触った場合はその種類を識別しました(触覚課題)。さらに晴眼者は目のみを使う識別も行いました(視覚課題)。急須や車に比べて手の識別で強く活動する脳部位を、Action Observation Network (AON)として特定しました。
図2 晴眼者が手の動作を認識しているときに強く活動した部位
Image may be NSFW. Clik here to view. 藍色の領域は、晴眼者が急須や車に比べて手の動作を識別した時に強く活動した脳部位を示しています。この脳部位は触って識別する課題(触覚課題)でも見て識別する課題(視覚課題)でも、手の動作に対して強く活動しました。水色の部分は、視覚から得られる身体の情報を専ら処理する脳部位(EBA)を示しています。活動をわかりやすく図示するために大脳皮質を膨らませて示しています。濃い灰色は脳溝を示し、薄い灰色は脳回を示しています。
図3 先天盲でも晴眼者でも手の動作を認識しているときに強く活動した脳部位
Image may be NSFW. Clik here to view. 黄色の領域は、先天盲と晴眼者で手の動作の認識時に共通して活動した脳部位を示しています。視覚経験に関係なく縁上回とEBAの一部が活動していることが分かります。水色の部分は図2と同じように、視覚から得られる身体の情報を専ら処理する脳部位(EBA)を示しています。濃い灰色は脳溝を示し、薄い灰色は脳回を示しています。
'The brain network underlying the recognition of hand gestures in the blind: the supramodal role of the extrastriate body area' Ryo Kitada, Kazufumi Yoshihara, Akihiro Sasaki, Maho Hashiguchi, Takanori Kochiyama, Norihiro Sadato The Journal of Neuroscience, 23 July 2014, 34(30): 10096-10108
これまで光沢を評価する脳の仕組みは明らかではありませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の小松英彦教授および西尾亜希子研究員らは、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の下川丈明研究員と共同で、画像のどのような情報を元に脳が光沢を評価しているかを明らかにしました。本研究は、Journal of Neuroscience誌(2014年8月13日号)に掲載されました。
Image may be NSFW. Clik here to view.ニホンザルの高次視覚野である下側頭皮質の個々の神経細胞の働きを、極細電極を用いて調べました。
図2 光沢知覚に関わる画像の指標
Image may be NSFW. Clik here to view.光沢を知覚する際には、ハイライトのコントラスト(c)、ハイライトの鋭さ ( d )、物体の明るさ( pd ) といった指標を使っていると考えられています。
図3 提示した画像の例(灰色だけ)
Image may be NSFW. Clik here to view.実際に、脳内でどのように光沢の情報が処理されているかを調べるため、ハイライトのコントラスト(c)と鋭さ(d)をそれぞれ4段階変化させ、明るさ( pd ) も3段階変化させた刺激を作成して、それぞれの刺激に対する神経細胞の応答を調べました。
図4 神経細胞の応答例
Image may be NSFW. Clik here to view.ハイライトの鋭さに応答した細胞(左)とハイライトのコントラストに反応した細胞(右)の例を示します。円の配置は、図3に対応しており、円の大きさはそれぞれの画像刺激に対するそれぞれの神経細胞の応答の強さを示しています。
図5 光沢の知覚的指標を神経活動から再現する
Image may be NSFW. Clik here to view.記録した神経細胞の集団の応答をもとに、光沢知覚に関わる画像の指標が正確に再現できました。このことから、今回記録した下側頭皮質の神経細胞は光沢知覚と密接に関わる3種類の指標(コントラスト、鋭さ、明るさ )に関する情報を表現していると考えられます。
Perceptual gloss parameters are encoded by population responses in the monkey inferior temporal cortex.. Akiko Nishio, Takeaki Shimokawa, Naokazu Goda & Hidehiko Komatsu. Journal of Neuroscience. 2014年 8月13日
Image may be NSFW. Clik here to view.生後の視覚体験に依存した一次視覚野の微小神経回路網の形成を示しています。生後正常な視覚経験を経た場合、入力される多様な視覚情報を混同することなく処理を行うための、独立した微小回路網が形成されています。対して暗室で飼育することで全ての視覚情報を遮断した場合では、開眼直後の未成熟な一次視覚野と同様、微小神経回路網は存在せず、また物の形などの視覚入力を遮断した場合では、独立した微小神経回路網の形成が阻害されました。この微小神経回路網が正常に形成されないことが、認知能力低下の一要因となっていると考えられます。
Image may be NSFW. Clik here to view.てんかん家系でみられるLGI1変異の多くは分泌不全型(赤色)でしたが、分泌型の変異(青色)も3つ見出しました。
図2 分泌不全型LGI1(右)はシナプスへ輸送されず、細胞体に貯留する
Image may be NSFW. Clik here to view.野生型(正常な)LGI1タンパク質は脳内でシナプスが存在する分子層に局在しますが(左)、てんかん家系で見られる分泌不全型LGI1は、タンパク質の構造異常が原因で、細胞体に貯留しシナプスに輸送されずに分解されてしまいます。その結果、LGI1¬–ADAM22によるシナプス伝達の制御が破綻し、てんかん病態が惹起されます。
Image may be NSFW. Clik here to view.分泌不全型LGI1 (赤色)は小胞体内で異常タンパク質として認識され、速やかに分解されます。一方、分泌型変異LGI1(濃青色)はシナプスで分泌されますが、受容体であるADAM22との結合能が欠損していました。
図4 LGI1-ADAM22結合量があるレベルを下回ると“てんかん病態”が生じる
Image may be NSFW. Clik here to view.LGI1ノックアウト(KO;–/–)マウスは生後3週間以内に致死性てんかんを必発します。また、LGI1ヘテロマウス(+/–)や今回樹立したLGI1変異マウスでは、正常なLGI1の量が半減し、てんかん感受性が亢進しています。一方、ヒトでは先天性の遺伝子変異だけでなく、後天性(主に中高年者)にLGI1自己抗体が生じ、結果としてLGI1–ADAM22結合量が減少した場合でも“てんかん病態”が惹起されます。すなわち、LGI1–ADAM22結合量がある閾値を下回ると“てんかん病態”が生じることが分かりました。したがって、化学シャペロンを代表とする“LGI1構造・分泌改善薬”や“LGI1–ADAM22結合模倣薬”はLGI1の抗てんかん作用を賦活(活性化)することで、新規の抗てんかん薬となることが期待されます。
Image may be NSFW. Clik here to view.実験には8つの素材を撮影した写真から採取した一万枚以上のテクスチャを用いました。(図はその中の一例です)
図2 V4野の神経細胞のテクスチャへの応答の例
Image may be NSFW. Clik here to view.左図:サルがテクスチャ画像を見ている時のV4野の神経細胞の応答を記録しました。 右図:ある神経細胞から得られた応答の一例。この細胞は木目のようなテクスチャに強く応答しました。各テクスチャの下部にあるグラフは、神経活動の強さを時間経過とともに示したヒストグラムです。横軸は時間、縦軸は20ミリ秒あたりの発火率を表します。神経細胞ごとに応答するテクスチャは様々でした。
図3 「テクスチャ合成」モデルと結果の概要
Image may be NSFW. Clik here to view.左図:V4野の細胞応答を説明するのに用いた「テクスチャ合成」モデル。このモデルでは一枚のテクスチャ画像から、「フィルタ処理」や「相関計算」といった複雑な演算により、多数の特徴量を算出します。 右:結果の概要。多数のテクスチャ画像を見ている時のマカクザルの脳活動を計測した一方で、「テクスチャ合成」モデルに基づき画像の特徴量をコンピュータ上で計算したところ、モデルが得られた脳活動の一部を説明できることが分かりました。またこのモデルに基づき解析を行った結果、脳活動がヒトのテクスチャ識別能とよく類似した特徴を持っていることが分かりました。
Image statistics underlying natural texture selectivity of neurons in macaque V4. G. Okazawa, S. Tajima, H. Komatsu Proceedings of the National Academy of Sciences, USA. 2014年 12月
Dissociable cortical pathways for qualitative and quantitative mechanisms in the face inversion effect D. MATSUYOSHI, T. MORITA, T. KOCHIYAMA, H.C. TANABE, N. SADATO, and R. KAKIGI. The Journal of Neuroscience. 2015年 3月11日掲載