概要
脳梗塞により脳の機能の一部が失われるが、適切なリハビリテーションを行えばある程度は回復が見込める。しかし、この回復の詳細な過程はまだ明らかではない。脳梗塞後の機能回復の過程において、直接障害を受けていない反対側の脳の働きが注目されている。これまでの本研究グループのマウスを用いた研究では、感覚野の脳梗塞後2日~1週間の間で反対側の感覚野の活性化が起こり、神経回路の再編成が起こったのち、健常な側の脳が従来両側の脳で分担していた役割を担うようになることによって、脳梗塞によって失われた機能の回復が起こることを報告している(Takatsuru et al., J. Neurosci., 2009)。今回、群馬大学大学院医学系研究科の高鶴 裕介 助教は、自然科学研究機構生理学研究所の鍋倉 淳一 教授と共同で、この脳の働きが活性化している過程においては、脳のグリア細胞(脳を構成する細胞のうち、神経細胞の働きを助ける細胞)が大変重要な働きをしていることを解明した。米国神経科学会雑誌(ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス、2013.3.13掲載)に掲載される。
脳梗塞時には、健常な側の脳では機能回復に必要な神経回路の再編成に伴い、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸が大量に放出されているが、その濃度が高くなりすぎると神経細胞を傷害してしまう。研究グループは、動物を生きたままの状態で観察することができる二光子レーザー顕微鏡と呼ばれる最先端の顕微鏡を使い、末梢神経を刺激した時の神経細胞および、グリア細胞の活動性を測定したところ、神経回路が再編成している時期ではグリア細胞の活動が高まっていることを発見した。一方、このグリア細胞が本来行っているグルタミン酸回収を抑制してしまうと機能回復が起こらないこともわかった。これらのことから、神経細胞の周りのグリア細胞が、グルタミン酸濃度が上昇しすぎないように調整していることが、脳梗塞後の機能回復に重要であることを明らかにした。
社会的意義とこれからの展望
今回の発見は(1)脳梗塞後の機能回復に障害を受けていない健常な側の脳の働きが重要であること(2)その働きにおいて、グリア細胞が重要であること(3)グリア細胞は神経細胞の一過性の過剰興奮を抑制することで脳を保護していること、を明らかにした。グリア細胞を新たな標的として研究していくことにより、これまで以上に効果的な脳梗塞後の機能回復に向けた治療法が開発されることが期待できる。今後は、脳梗塞後の機能回復の過程でグリア細胞の働を効率よく活性化できるような新薬の開拓・開発を目指していく予定である
お問い合わせ
(研究に関すること)
群馬大学大学院医学系研究科 応用生理学分野
助教 高鶴裕介(タカツル ユウスケ)
〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22
Tel:027-220-7923 Fax:027-220-7923
E-mail:takatsur@med.gunma-u.ac.jp
(取材対応窓口)
群馬大学昭和地区事務部総務課
副課長 尾内 仁志
〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22
Tel:027-220-7711 Fax:027-220-7720
E-mail:onai@jimu.gunma-u.ac.jp
(自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室)
准教授 小泉 周(コイズミ アマネ)
〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
Tel:0564-55-7722 Fax:0564-55-7721
E-mail:pub-adm@nips.ac.jp